J-POPでありがちな歌詞「翼を広げて君の名を呼び」 抽象的ではなく具体的な歌詞を操る異端児の「ヤバT」
多くのミュージシャンが「愛」や「平和」をテーマに歌う。
翼を広げて君の名を呼び、会いたくて震えて、眠れぬ夜を過ごして瞳を閉じて歌う。
ラブアンドピース。
愛や恋、平和への歌は時に「J-POPでありがち」と批判される。
抽象的な歌詞は多くの人に何かしらの部分は刺さるものの、具体的な意味は乏しくなってしまう。
ミュージシャンは抽象的な言葉を並べるのではなく、具体的でリアリティのある歌詞をもって社会の役に立てないのか。
そんな問いへの答えを提示するのが若者に人気の3人組バンド「ヤバイTシャツ屋さん(通称:ヤバT)」。
その中でも2018年にヤバTが発表した楽曲「かかとローラー」は、地に足の付いた肉感のある歌詞で社会問題に切り込む。
ヤバTのボーカル、かかとのところにローラーがついた靴をはいた子供と実際にぶつかる
【2019年の夏フェスではヤバTが大活躍した】
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かかとのところにローラーがついた靴が子供に大流行した時期があった。
外見は一般的なスニーカーだが、底面のかかと近くにローラーが埋め込まれている靴だ。
アメリカのヒーリングスポーツ社が2000年に発売、日本では2000年代に子供たちが好んで履いた。
硬い床では転倒しやすく危険なため、ショッピングセンターなどでは「ローラーシューズ禁止」との張り紙も出たほどだ。
バンド「ヤバT」でボーカル兼ギター、作詞作曲担当のこやまたくやは2017年、かかとのところにローラーがついた靴をはいた子供にぶつかった。
その実体験を元に作った曲が「かかとローラー」だ。
こやまたくやは小学校3年生ぐらいの子供とぶつかり「これ子供じゃなくて車やったら普通に大事故やで。車じゃなくてよかった」と歌う。
かかとのところにローラーがついた靴の仕組みはどうなっているのか、どこに売っているのか。
そんな疑問をぶつけながらも、社会的な問題提起へと繋げていくのだ。
【「かかとローラー」の歌詞の一部】
規制せえとは言わんけど
親がしっかり注意せえ
保護者の責任しっかり果たそう周りが注意せえ
地域のコミュニティー大切に
子供を守り安全な暮らしを車じゃなくてよかった
小3か小4のガキで助かった
アーティストとして社会問題への想いを曲で伝える姿勢 地域のコミュニティー大切に子供を守り安全な暮らしを
【かかとのところにローラーがついた靴】
ヒーリーズ 2017 ローラーシューズ PLUS X2 ホワイト/ ブラック/ レッド 20cm
どんな想いで「かかとローラー」が生まれたのか。
こやまたくやは複数の音楽雑誌のインタビューで「実際に子供とぶつかった時には注意することができなかったため、アーティストとして曲で伝えたいと思った」と話している。
これが本来、あるべきアーティストの姿ではないだろうか。
愛や恋を歌って平和を願っても、抽象的すぎるその歌詞は人の行動に影響を及ぼしにくい。
しかし、「かかとローラー」を聞けば「確かにあの靴は危険だよね」と気づく。
自由が尊重される現代社会で、かかとのところにローラーがついた靴を禁止するのはやり過ぎかもしれない。
ここは「親や周りが子供を注意し、地域のコミュニティーで子供を守っていくべきだろう」という思想に至る。
「かかとローラー」という曲は多くの人に社会をより良くしていこうという強い気持ちを芽生えさせるのだ。
かかとのところにローラーがついた靴、再ブームの兆し ヤバTの先見の明
かかとのところにローラーがついた靴が日本で流行したのはあくまで2000年代だ。
2019年の令和の今、多くの子供たちは普通のスニーカーを履いている。
ヤバTの曲「かかとローラー」は去ったブームに言及するだけの意味のない歌なのか。
違う。
かかとのところにローラーがついた靴には再ブームの兆しがある。
繊研新聞は2018年、かかとのところにローラーがついた靴が再び注目を集めていると報道した。
(記事:ローラーシューズ再び注目 「ヒーリーズ」15万足超へ)
2019年夏には人気歌手のジャスティン・ビーバーが、かかとのところにローラーがついた靴を履いて自宅の床を滑る様子をインスタグラムのストーリーにアップした。
かかとのところにローラーがついた靴が再び日本でブレイクした時、ヤバTの曲「かかとローラー」は社会的意義を持って語られるだろう。
なお、かかとのところにローラーがついた靴で有名なのはアメリカのヒーリングスポーツ社が2000年から発売しているローラーシューズ「ヒーリーズ」だ。