ソフトバンクが自己株式6500億円分を初めて消却
ソフトバンクは10月7日、発行済株式の8.33%にあたる1億株を消却すると発表しました。
7日の終値で計算すると約6500億円となります。
ソフトバンクとしては初めての自己株消却となり話題となっています。
自己株の消却とは何でしょうか?
自己株の消却とは珍しいものなのでしょうか?
自己株式の消却とはことわざの「朝三暮四」、目の前で差はあるものの結果は変わらない現象と似ています。
解釈が難しいと言われ世間一般と株式市場、会計関係者で意見が分かれる典型論の一つの自己株式の消却を考えてみます。
自己株式の消却は基本的には意味は無い
自己株式の消却とは、会社が株主から買い戻した自社の株式を消滅させることです。
会社にとっては発行済株式の減少を意味しますが、会計上で現金や純資産などが変わるわけではありません。
厳密に言うと会計上は以下の仕訳を行います。
その他資本剰余金(純資産のマイナス) / 自己株式(純資産のマイナス)
自己株式の消却は純資産のマイナスと純資産のマイナスと同じ区分の仕訳なので、BS(貸借対照表)の大きな区分の数字に変更はありません。
自己株式は市場に処分することで資金調達ができるのでは?
企業は持っている自己株式を市場に処分すれば現金が手に入ります。
でも、企業が「自己株式を処分する」のも「増資する」のも会社法では同じ扱いになります。
会社法第199条1項は「株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは〜」と規定しています。
自己株の処分と消却に関する部分の誤解が一般的には一番大きいのではないでしょうか。
自己株式を市場に放出する・増資をするのも、会社法上は全く同じ事態です。
でも、自己株式の消却を発表すると株価は上昇するのが多いよね?
自己株式の消却を発表すると、その会社の株価が上昇する傾向は多く見られます。
キュレーションドットコム総研(キュレコム総研)の調べでは、自己株式の消却の発表と株価上昇には明確に正の相関関係があります。
自己株式の消却は株主にとってプラスなのでしょうか?
一般的に、自己株式の消却は経営陣からの「この自己株は市場に出さないよ!」というメッセージと受け止められます。
自己株の処分も増資も同じ手続きが必要なのですが、世間一般は増資の方がハードルが高いと思いがちです。
「自己株式を消却する」という言葉からも自己株式をなくす(=増資をしない)という意気込みが伝わりそうですよね。
日本の株式市場では長い歴史の中で、「自己株消却=増資をしない」という暗黙の了解が出来上がっているのです。
理論的には企業の自己株式の取得が明らかになる時点(自己株消却の前)で株価が上昇するのが需給面では正しいと言えます。
なお、企業は自己株式を従業員の報酬としてのストックオプションに使うこともあります。
自己株式の消却は基本的には意味はないのですが、ある程度の機能があるのは事実です。
ソフトバンクがこのタイミングで自己株式の消却をするのは意味があるのでは?
ソフトバンクの10月7日の発行済株式の8.33%の自社株消却には深謀遠慮があるのではないか?
それは深読みしすぎではないでしょうか。
自己株式を取得した企業が自己株式を消却するのは珍しくもなんともありません。
そもそも、ソフトバンクは英アームの買収などで大規模な資金を必要としている企業です。
本来は自己株の取得などしている場合ではなかったのです。
最近で話題になったソフトバンクが実行したハイブリッド債の発行は資金調達であり、同列に論じるならば自己株式の処分(企業がお金を増やす)か増資です。
ソフトバンクの自己株の消却は一般的な流れにそってやっただけ、と考えるのが妥当でしょう。
そして、自己株式の消却とはアイドルの笑顔になる
自己株式の消却は本質的には意味はありません。
ただ、世間一般に対してその心意気、意気込みを示すメッセージにはなっています。
それはアイドルの笑顔と同じです。
形式上では地球上にありふれた人類の一人の笑顔がそこにあるだけ。
でも、そのたった一人のアイドルの笑顔で多くの人たちが思わずニッコリですよね。