NewsPicks運営などのユーザベースが上場、その実力を探る
新興のメディア企業は株式市場でどんな評価を受けるのか。
企業情報データベース「SPEEDA(スピーダ)」や経済ニュースのアプリ「NewsPicks(ニューズピックス)」を運営するユーザベースが10月21日、東証マザーズ市場に上場する。
2008年4月1日の設立から8年で上場、経済ニュースのアプリ運営という珍しさもあり株式市場で注目を集めている。
ユーザベースとはいったいどんな企業で、財務の内容や成長性はどこにあるのか。
経済誌キュレーションドットコムが分析する。
ユーザベースの採算は2016年に改善、時価総額は177億円を想定
2014年12月期と2015年12月期、上場直前の2016年1〜6月期の業績を見てみよう。
14年12月期 | 15年12月期 | 16年1〜6月期 | |
売上高 | 11億2299万円 | 19億1506万円 | 13億7886万円 |
営業損益 | △3億9597万円 | △3億3284万円 | 1億4506万円 |
経常損益 | △3億9588万円 | △3億3865万円 | 1億3205万円 |
最終損益 | △3億9743万円 | 1億1073万円 | 1億1198万円 |
事業規模拡大のための投資が先行して赤字が続いていたが、足元で利益が出始めている。
2013年にリリースした経済ニューズアプリ「ニューズピックス」が利用者の拡大や有料課金を始めて採算が改善した。
キャッシュ・フロー計算書を見ると2014年12月期と2015年12月期は営業キャッシュ・フローが2億円超のマイナスだった。
事業を運営するキャッシュが恒常的に足りず外部から資金を必要とする状態が続いていたが、2016年1〜6月期には営業キャッシュ・フローは2億9057万円のプラスに転換している。
2016年9月15日に東証から上場承認を受けた時点で会社は1株あたり2510円、時価総額は177億円を想定した。
ニュース配信アプリの「グノシー」の時価総額183億円(9月16日時点)とほぼ同じ規模だ。
今後、ユーザベースの価値は株式市場において不特定多数の投資家たちに評価される。
急成長しているのが経済ニュースアプリ「ニューズピックス」
ユーザベースの事業の柱は明確に2つ。
企業情報データベース「スピーダ」と経済ニュースのアプリ「ニューズピックス」だ。
足元で拡大しているのが2013年にサービスを開始した「ニューズピックス」。
スマートフォンに特化した経済ニュースメディアで、ユーザーがニュースにコメントするSNSの機能を備えている。
ライブドア元社長のホリエモンこと堀江貴文氏やスカイマークの佐山展生会長など著名人のニュースに対するコメントを閲覧できるのも特徴だ。
ニューズピックスの会員数は2016年6月末で149万人、有料課金ユーザー数は1万9336人となった。
2016年1〜6月期のニューズピックス事業の売上高は3億8806万円(全体の約3割)、部門別損益は3096万円の赤字だった。
(ユーザー数の推移グラフ)
ニューズピックスに会員登録して日々に1度でもアクセスしたユーザー数を図る月間の平均のアクティブユーザー数は2014年6月末の1万5715人から2016年6月末には15万1784人と2年間でちょうど10倍に伸びた。
新興の経済メディアとしては順調な伸びと言えるだろう。
有料課金ユーザーは2016年6月末時点で1万9336人。
課金額は月額1500円(iOSは1400円)のため、現時点での有料会員からの収入は月間で約2800万円、年間で3億円超だ。
この有料会員数がどこまで伸びるかが事業の成否の鍵を握る。
アプリ内では企業向けの一般広告、人材採用広告も手掛けている。
サービス利用者、有料会員登録数は増加基調が続いており、利益をどこまで伸ばしていけるかが投資家の関心事だ。
安定した収入源が企業情報データベースの「スピーダ」
経済ニュースアプリは個人が簡単に利用できるためニューズピックスに注目が集まりやすい。
もっとも、ユーザベースの安定した収益源となっているのは企業情報データベースの「スピーダ」だ。
法人向けオンライン情報プラットホームで世界200カ国以上をカバーした企業の財務や株価データ、業界の地域別の分析レポートや統計データなどを備えている。
2009年にスピーダはサービスを開始、金融機関やコンサルティングファーム、事業会社などが利用している。
契約数は2011年6月末が318、2013年6月末が638だった。
2013年10月に海外向けスピーダを提供、2016年6月末の契約数は国内外合わせて1393まで伸びた。
2016年1〜6月期のスピーダ事業の売上高は9億9080万円(全体の約7割)、部門別利益は1億7602万円だった。
(スピーダ契約数の推移グラフ)
スピーダは利用者からの評判はおおむね良好だ。
利用料金は公表されていないが、会社名を明らかにして個別に資料請求をすれば機能と料金をまとめた概要資料を受け取れる。
今のところ国内外の契約数は堅調に推移している。
今後の成長戦略は「ニューズピックス」と「スピーダ」の融合
ユーザベースが今後の成長戦略として掲げているのがスピーダとニューズピックスのシナジーの強化だ。
現在のシナジーはニューズピックスにおいてスピーダが持つ一部の経済データの提供、スピーダにおいてニューズピックスの記事の一部配信にとどまる。
今後は2つの事業の連携を前提としたモバイル版「SPEEDA」の展開など新たなサービスを検討している。
両サービスの利用者は経済情報において感度の高い層であり需要はたしかにありそうだ。
2つの事業の最大の懸念は市場の小ささ
順調に成長してきたユーザベースの最大の懸念は市場の小ささだろう。
企業情報データベースのスピーダにおいては銀行やファンドなど利用する主体が限られる。
ブルームバーグやQUICKなど老舗の競合がいるほか、人工知能(AI)の発展によりソフトバンクや日立など従来は異業種だった他社の参入や情報データベースが必要となくなる可能性がある。
経済ニュースは複雑のため娯楽や芸能人、SKE48などアイドル業界よりも市場が小規模の可能性はあり、ニューズピックスでも市場の小ささの懸念はある。
国内の経済ニュースの媒体では日経新聞の2016年6月末の有料会員登録数が48万人、無料登録と合わせた会員数は317万人だ。
上述のようにニューズピックスの形式上の会員数は149万人に達しており経済ニュース市場の上限はさほど大きくないかもしれない。
ニュースの供給側に目を当てるとインターネットの普及、発展により無料で経済ニュースを配信する媒体は増え続けている。
お金を払って経済ニュース、記事を読みたいという層が今後は縮小していく可能性もある。
ニューズピックスでは新たな競合登場の可能性も
企業情報データベースのスピーダにおいてはAIの驚異的な発展などがないかぎり当面は売り上げが安定しそうだ。
一方、経済ニュースアプリのニューズピックスではブランド力の低下や競合の登場で売り上げが急減する可能性がある。
ユーザベースは有価証券報告書でニューズピックス事業に係るリスクについて、「高い資本力や知名度を有する企業等の参入により、競争の激化とユーザーの流出やユーザー獲得コストの増加」を記載した。
独自ニュースとそれに対するコメント機能というサービスは既存メディアで同等のサービスを開始するのは容易だ。
朝日新聞や読売新聞、日経やブルームバーグ、ロイータなどが同様のサービスを始めれば独自のニュース記事のコンテンツ力が劣るニューズピックスは危機に陥るだろう。
ニューズピックスでは炎上懸念、イノヴェイションなど無意味なコメントも目立つ
インターネットで特有の炎上などによりブランド力が低下する懸念もある。
ユーザベースは有価証券報告書でサイト運営の健全性について「健全性を欠くコメントがユーザーによって投稿される可能性やほかのユーザーを誹謗中傷するコメントが投稿される可能性がある」と記載した。
ユーザー同士での喧嘩、脅迫などが続いて運営側がサイト内での規律を保ち続けられるかを不安視する声はユーザーに多い。
サービス内のコメントは誰でも投稿が可能なため「イノヴェイション」など意味のない言葉が乱立する時もある。
ニュース記事をユーザーたちが共有しコメントするシステムはネットの最大手掲示板の「2ちゃんねる」と変わらない。
ブックマークを無料で保存できるソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク」と内容は類似しており、「NPは意識の高い『はてブ』だ」と指摘する声もある。
ユーザベースの上場によりニューズピックスの知名度は高まるだろうが、今後も成長基調が続くかどうかは未知数だ。
経営安定のため増資を実施、株主は経営陣のほかグロービスやマネックス、講談社など
ユーザベースは今回の新規上場の時点で株主数が100人を超えているのは特徴的だ。
ニューズピックス運営に必要な資金を手当てするため、会社は非上場時に数度にわたる第三者割当増資を実施した。
株主は経営陣の新野良介氏や梅田優祐氏のほかグロービスやマネックス、講談社などが名を連ねる。
上場時に従業員株主が多いのも目立ち、坂本大典氏や佐藤留美氏なども株主だ。
経営陣や多くの従業員にストックオプションも割り当てられており、ユーザベースの株価が上昇していけば従業員たちは上場の果実を受け取れる。
ユーザベースの役員にはマネックスの松本大氏や慶應大の琴坂将広准教授も
ユーザベースの経営陣は創業者の梅田優祐氏のほか、社外取締役としてマネックスグループ社長の松本大氏、社外監査役として慶應義塾大学総合政策学部の琴坂将広准教授など。
常勤監査役には1980年9月18日生まれで監査法人トーマツ出身の嶋田敬子氏。
ニューズピックスにおいてはマネックスの松本社長の半生を振り返る特集も連載した。
出資者や役員たちが記事に協力、コメントの投稿などを実施してコンテンンツの強化を図ってきた。
一般的に、メディアは自社グループの関係者の記事を掲載する場合は読者に誤解を与えないよう、ステルスマーケティング(ステマ)と捉えれられないように注意を図る。
従業員の平均月収は40万円、梅田社長は月収60万円か
ユーザベースの従業員の平均年齢は32.6歳で平均年間給与は590万円だ。
夏と冬のボーナスをともに1.5ヶ月分として計算すると32歳の従業員の月収は約40万円となる。
役員報酬の内容から単純に計算すると梅田社長はボーナスなしで月収62万円の計算となる。
もっとも、梅田社長と新野社長はユーザベース株を193万株を所有しており、上場により50億円前後の資産を持つと想定できる。
株式市場はユーザベースをどう評価するか
ユーザベースは設立から8年で成長を続けてきた。
ミッションの「経済情報で、世界を変える」を果たすために7つのルールを掲げている。
そのうちの一つが「ユーザーの理想から始める」。
ユーザベースが競合の老舗メディアと対抗する存在まで育つか、キュレーションメディアの競争激化に巻き込まれて消えていくか。
スピーダやニューズピックスがユーザーの理想に基づいているか、株式市場からの評価が待っている。
付録:ユーザベースにおける誤解など注意点
社名はユーザーベースではなくユーザベースであり、間に長音符の「ー」は入らない。
EDINETなどの検索においてユーザーベースと打っても出てこないのには注意が必要だろう。
経済ニュースアプリ「NewsPicks」は「ニュースピックス」ではなく「ニューズピックス」と「ズ」と発音する。
関係者の間では「ニュースピックスのほうが語呂が良かった」との声は多い。
出典
トップ画像:ユーザベースホームページ
文中のグラフ:目論見書(マネックス証券ホームページ)