漫画家が選ぶ、影響を受けた漫画10選 「ホリエモン刑務所マンガ」を手がけた西アズナブル氏
平成のコンテンツの主役の一つは漫画だった。
ジャンプ、マガジン、サンデーなど少年誌の連載漫画は日本の若者だけでなく、世界中に影響を与えた。
かつて少年だった大人が居酒屋に集まれば「好きな漫画は何か」で会話に花が咲く。
そんな漫画談義において、漫画家が影響を受けた漫画を選ぶとすればどんな作品だろうか。
カルロス・ゴーン氏の影響もあってか、2018年末に人気急上昇中のホリエモンの獄中漫画「刑務所いたけど何か質問ある?」などを手がけた西アズナブル氏(ツイッター:@nishi_aznable)に聞いた。
インタビューアーは経済誌キュレーションドットコムの編集長kaikei、トドこと東堂馬人氏。
(注:以下のインタビューは居酒屋で実施、あくまで西アズナブル氏が「影響を受けた」漫画に限定している)
【西アズナブル氏の漫画が2018年末に再ブレイクしている】
10位、寄生獣 作者:岩明均
【あらすじ】
他の動物の頭に寄生して神経を支配する寄生生物が地球にやってきた。
高校生の新一と、彼の右手に誤って寄生したミギーは互いの命を守るため、人間を食べる他の寄生生物との戦いを始めた。
ーーさっそく、漫画家が影響を受けた漫画10選に入りたいと思います。まず、第10位は
「寄生獣ですね。あの切られている感じ、ねちっこい感じは凄いです。単行本で全10巻と、そこで終わっているのが上手い」
ーー人類とはなんなのか、環境問題など当時の漫画としては画期的なテーマでした
「ターミネーターやタイタニックを手がけたジェームズ・キャメロン監督が影響を受けたぐらいですからね。その影響力はワールドクラスです」
ーー寄生獣の絵の特徴は
「人の顔をしているんだけど、ヒトじゃないものが描けています。だからこそ、広川市長が実は人間だった、という伏線が力を発揮しています」
「あそこまで売れたのは担当の編集の人の力もあったかもしれません。例えばですが、後藤みたいに『わかりやすい敵を作りましょう』などは編集側が提案するような手法です」
ーー寄生獣のような特殊な設定で面白かった漫画は
「山田芳裕先生の『度胸星』ですね」
「人類が火星に到達するも、そこで交信が途絶えてしまう。そこで人間の身体を裏返す(内臓や骨を露出して、皮膚や髪の毛を内部に入れる)謎の物体『テセラック』と相対する話です。めちゃくちゃ面白いですよ」
ーー山田芳裕先生と言えば「へうげもの」などが有名
「そうです。度胸星はちょっと難しいんですが、知っている人には凄い人気があります。漫画好きの人にとって読んで欲しい作品です」
9位、火の鳥 作者:手塚治虫
【あらすじ】
火の山にすむという不死鳥、火の鳥。
その生き血を飲んだ者は、永遠の命を得られるという。
不死身の鳥をめぐって壮大な宇宙ロマンが展開する。
ーー第9位は
「手塚先生の火の鳥です。読んだ時になんだこれは、と。ちょうど私が漫画を読んだ時に映画化(1986年)、ゲーム化(1987年)もされて話題にもなっていました」
ーーファミコンでノミを投げて戦うゲーム「火の鳥 鳳凰編 我王の冒険」ですね。あれにはハマりました
「そうです。我王が鬼瓦を使って進んでいくゲームです」
ーー漫画ではどんな所が凄かったでしょうか
「あそこまで風呂敷を広げた漫画はそうないですよね。世界観じゃなくて、世界を描く。時間と空間を描くぞという気概がある」
「自分が漫画家になってみて改めて圧倒されましたね。尊敬しかないです」
8位、キャプテン 作者:ちばあきお
【あらすじ】
無名の墨谷二中の野球部に、野球の名門・青葉学院から一人の転校生、谷口タカオが入部した。
だが実は、谷口は名門の青葉では二軍の補欠だった。
大きすぎる期待と実力とのギャップに谷口は悩む。
ーー第8位は
「ちばあきお先生のキャプテンです。もう最高ですね。これはキャプテンが代替わりしていく話なんです」
「最近では経営者のマネジメントの話とも言われます。カリスマ創業者が初代キャプテンで、それを慕ったサラリーマン社長が2代目、これがこけるんですよ」
「3代目が天才で、徹底的なコストカットをして全国1位に到達。4代目はバカなやつと思われていたんですけど、自分の代は弱くても将来のために繋げていく、という流れです」
ーー王道の野球漫画とは違いますね
「さらに特徴的なのは友情が描かれていないんですね。ジャンプと言えば『友情・努力・勝利』。ところがキャプテンでは努力と勝利だけしか描かれていない」
「漫画では試合よりも練習のほうが長い。練習シーンばっかりです。人間関係は描かないんだけど猛特訓する様を見せていく。そうすると、友情があるように見える」
「友情はまったく描いていなくて超ドライ、個人的な付き合いはみせないんですよ。絵柄は牧歌的な、いつものちばあきお先生なんですけどね」
7位、まんが道 作者:藤子不二雄(A)
【あらすじ】
連載期間43年の藤子不二雄A先生の自伝的作品。
満賀道雄と才野茂、北陸で出会った2つの才能が、漫画家という夢に向かって共に歩んでいく。
ーー第7位は
「藤子不二雄A先生のまんが道です。漫画を描く人なら誰でも読んでるのではないでしょうか。とにかく、めちゃくちゃやる気がでます」
「先生がこれだけ悩んで、これだけ努力したのかと。ものすごく前向きで、めっちゃ面白いです」
ーー形式も斬新だった
「ドキュメンタリー漫画の走りみたいな部分があります。漫画家が自分を主人公にしているという点で、漫画家に一番影響を与えた漫画かもしれない」
「キャプテン翼を読んでサッカーを始めた人が多いように、まんが道を読んで漫画家になった人はたくさんいるんじゃないでしょうか」
6位、風の谷のナウシカ 作者:宮崎駿
【あらすじ】
戦争で巨大産業文明が崩壊してから千年、大地は荒れ果て人間の生存を脅かしていた。
毒から守られた「風の谷」では王女ナウシカを中心に平和に暮らしていたが、大国トルメキア軍の侵略に遭う。
ーー第6位は
「風の谷のナウシカですね。もう、純粋に好きです。漫画と言うより映画っぽいんですが、とにかく面白い」
「漫画はおじさんの家にあったんです。映画を見ると全然ちがうじゃん!となりました。こういうのもアリなんだと思いましたね」
ーー設定が漫画と映画で違う
「ナウシカもめっちゃワガママじゃないかと。物語のロジックがよくわからないとも言われますが、それも宮崎駿先生が抱えている矛盾そのものなんでしょうね」
5位、鉄コン筋クリート 作者:松本大洋
【あらすじ】
純粋な力を信じるクロと純粋な心を信じるシロの2人の悪童。
2人は学校に通わず、暴力で金を奪い取る荒んだ生活を繰り返していた。
ーー第5位は
「鉄コン筋クリートですね。めちゃくちゃ影響を受けました。むしろ、その影響から抜け出すのが大変だったほどです」
ーー作風が斬新です
「今までに読んだことがない漫画でした。高校生の時にみてなんじゃこれ、と。めっちゃオシャレじゃん、なんじゃこれ!と。こんな漫画あるんか!と」
ーー当時を代表する漫画家ですね
「1990年代と言えば松本大洋先生、岡崎京子先生ですよね。僕らの世代は影響を『受けた』というか、影響を『くらった』人が多いです」
4位、ジョジョの奇妙な冒険 作者:荒木飛呂彦
【あらすじ】
イギリス貴族ジョースター家の一人息子・ジョナサンは平和に暮らしていた。
だが、ディオ・ブランドーの出現により長い戦いの歴史が始まる。
ーー第4位は
「ジョジョの奇妙な冒険です。始まった当初から、僕と兄の間ではすげーのが始まったと大騒ぎでした」
ーージョジョは2部の中盤や3部から人気が爆発したイメージですが
「僕は1部の開始時点から盛り上がっていましたね。その時点では学校でジョジョを話す相手が一人しかいなくて。その彼とはジョジョのおかげですごい仲良くなりました」
(注:ここからおっさんインタビューたちによりジャンプ話に大きく脱線)
ーー石仮面がとにかく衝撃的だった
ーーあの1コマが衝撃的というのが多い
ーー衝撃的と言えばドラゴンボールのタオパイパイ
「ドラゴンボールでは悟空が成長した時に天下一武道会の控え室で集合、振り返った時にマジュニアがいたシーンが衝撃ですよ。みんなでワイワイしていたのに、おまえもいるんかい!と。あの1コマは凄い」
ーータオパイパイが柱を投げて、それに乗っかるあれも凄い。異次元の強さを持っているというのがわかる
「タオパイパイの『トン』ってやつですね。『ヒョン』って柱に乗るのも凄い。あれは重力が描けるからこそ」
「宮崎駿先生もそうだけど、鳥山明先生も重量の表現が凄い。重力が描けるかけるから舞空術にもリアリティーが出てくる」
ーードラゴンボールでは地球に引力があるのが伝わります
「上手い人は重力を感じさせますね。その重力が描けるから、重力がないシーンも描ける」
ーー漫画でエネルギー波を出した走りがドラゴンボール
「なにが最初かの議論はあるけど、世に広めたのは間違いないですよね」
ーーキャプテン翼の第1話が荒唐無稽で凄い
ーー明和のタックル部隊とかただのファウル。立花兄弟のあたりでみんなゴールポストに登るし、それを防ぐためにポスト蹴るのも全部だめっていう
「立花兄弟がよみうりランド駅で線路を挟んでパス交換してましたが、今だとマズイでしょうね」
ーーキャプテン翼の第1話は面白い
ーーいろんな部活の人が若林くんからゴールを決めようと各自のルールでボールを蹴る。最後には野球部がボールを投げるんだけど、それも止めちゃう
ーー世界を変えたという意味ではキャプテン翼がドラゴンボールと双璧、いや、実社会を変えたのはキャプつばかも
ーースラムダンクもバスケット人口を爆発的に増やして実社会を変えた。それまでバスケ漫画は売れないと言われていた
「難しいところですよね。例えば、ハンドボールであれば、今でもそのルールを説明する必要がありそうです。説明しながら話を進めなくちゃいけない。第1話でゲームのルールの説明は、難しい」
「コートのどこに人がいるのかを解説しなくちゃいけない。バスケやサッカーはなんとなくココにいる、ってのが読者にわかってもらえる。ハンドボールは位置関係がどうなってるの?という部分を説明するため、いちいち引きの絵を入れなくちゃいけない」
ーーキャプテン翼であれば日向くんが前にいる、という状況がハンドボールでは説明しないといけない
「僕はハンドボール部だったので、その漫画を挑戦してみたが全然書けなかったですね」
ーー野球は漫画の題材になりやすいですね
「野球はすごい描きやすいですよ。ピッチャーとバッターの1対1。こいつとこいつが戦っているんだよ、ってのが明確です」
3位、AKIRA 作者:大友克洋
【あらすじ】
第3次世界大戦から38年、世界は新たな繁栄をむかえつつあった。
ネオ東京を舞台に繰り広げられる本格SFアクション。
ーー第3位は
「AKIRAですね。コンクリートが球体にバキバキとなる表現、あれが初めて出てきたものではないでしょうか。超能力を絵に落とし込んだ画期的な作品です」
「スクリーントーンを削って使ったのは大友克洋先生が最初らしいです。それまではベタで貼ってただけ。スクリーントーンはもともと漫画じゃなくてデザインの画材だったんですよ。それをカッターで削って漫画の表現にしたというね」
ーー漫画業界の長い文脈で見ても重要な作品に
「漫画史的にも絶対に外せないですね。それまでは手塚先生的な絵と劇画的な絵の2つの文脈しかなかった。AKIRAが青年誌的な作品のデフォルメの大本でしょう」
ーーAKIRAは特にクリエイター側に人気がある気がします
「面白いポイントが絵やテーマ、表現だからでしょうか」
「漫画家になってから大友先生の絵の上手さに改めて感心しました。これは凄いな、これが描けるんかよっていう。俯瞰でとったり煽りでとったり、デッサン力、背景のバランス、画力、どれも凄い」
2位、柔道部物語 小林まこと
【あらすじ】
先輩たちの甘い言葉に乗せられて柔道部に入った三五十五(さんご・じゅうご)。
入部したとたんに先輩たちの態度が豹変。シゴキはあるわ、坊主頭にさせられるわ。
しかし、一度やると決めた柔道で三五は戦っていく
ーー第2位は
「柔道部物語です。あれがなければ『はじめの一歩』もなかったでしょう」
ーースラムダンクもなかったのでは
「そうですね。スラムダンクも影響を受けていると思います。表情もそうだし、早く動くときにこういう『線』になる。道着のシワの描き方なんかもそうですが、スラムダンクは影響をうけていると思います。小林まこと先生はとにかく動き方を描くのがめっちゃうまい」
「顔のデフォルメが独特で甘くて。小林先生はホワッツマイケルもそうですが、猫が変な動き方をしているってだけなのに上手」
ーー真剣な試合とコミカルな日常の双方をきっちり描くのは小林まことさんが元祖な気はします
「王道のスポコン漫画ですよね。いろんな人が影響を受けている作家だと思います。個人的にはめっちゃ影響を受けてますね」
1位、ゴリラーマン 作者:ハロルド作石
【あらすじ】
池戸定治(いけどさだはる)、ワケあって白武高に転校してきた。
ゴリラーマンの異名をとる、ゴリラによく似た恐ろしい顔の、でも自分では鹿賀丈史に似ていると思ってる謎の男だ。
しかし白武高の生徒は、無口なゴリラーマンの、本当の恐ろしさをまだ知らない。
ゴリラーマンの周りで繰り広げられるバトルと笑いの日々を描いた傑作。
ーー西さんがもっとも影響を受けた漫画家の第1位は
「ハロルド作石先生のゴリラーマンです。間違いなく一番影響を受けました。今、僕が似顔絵を描いているのもハロルド先生の影響ですね」
ーーハロルド作石さんと言えばBECKやストッパー毒島などが有名
「そうです。ゴリラーマンでは主人公が別にいるんですけど、ゴリラーマンというキャラ自体は最終話までずっと喋らない、一言も喋らない」
「当時の時代をすごい捉えています。進学校でもないけど、ヤンキー学校でもない。なんでもない日常を描いているんだけど、一人しゃべらなくて強い奴がいる。そして、誰もそれを知らない。本当に面白い漫画で、影響を受けましたよ」
ーー多くの漫画家に影響を与えた作品でしょうか
「多くのヤンキー漫画系にも影響を与えていると思います。動きを描くのが本当に上手い。あと、小ネタやパロディがツボでした」
影響を受けた漫画、その他
ーー漫画家が選ぶ10選ということで、一般読者が選ぶ好きな10作品とは系統が異なった気がします
「意外と10位以下の方が特徴が出るかもしれませんよ。例えば高橋留美子先生、あだち充先生は漫画史では超重要です。あくまで、個人的に影響をそこまで受けていないだけですから。特に、アニメの方で先に見ちゃった作品は、漫画というよりアニメの感覚になっています」
ーー漫画のプラットフォーム(絵は自動で用意して、内容を利用者が考える)を作るとしたら誰の作品がハマりそうですか
「あだち先生作品は漫画のプラットフォームに適しているんじゃないでしょうか。独特の間の取り方、あれは凄い。あのベテラン感、あれは新人では書けませんよ」
ーー他に衝撃的な漫画のシーンは
「魁!!男塾での大豪院邪鬼の登場シーンですね」
ーー邪鬼は登場時はめちゃくちゃでかいというアレですね。その後、邪鬼は大男に戻って普通に話が進んでいきました
「邪気が巨大な時のシーンでは、超でかいビール瓶が出てくるんですよ。でも、ビール瓶はでかくならねえだろ!っていう。今思うと、宮下あきら先生もわかっていたはずなんですよね。邪気が巨大でも、ビール瓶は巨大じゃないと」
「つまり、巨大なビール瓶をわざと描いているんです。現実にあり得ないとわかっていて。そこを『イケる!』と思うのか、と。漫画を描くようになってから、あれは絶対に描けないって思っちゃいましたね」
〜終わり〜
おまけと次回予告
インタビュアー、トド氏が影響を受けた漫画
・国民クイズ
「クイズの設定、クーデターの失敗、昔ながらの資本主義、日本人が選ぶ全体主義。世界観が面白かった」
・沈黙の艦隊(トド氏、kaikeiの両方)
「「面白い」」
西アズナブル氏の漫画論
「漫画の設定を考えるのは本当に楽しい。でも、要はそこに出てくる奴が何をするのか、それをみんなが見たい。設定に比率がいっちゃうと、その設定に合わせて人物を考えて失敗しがち」
・次回予告
自分が影響を受けた1コマとは!?